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脱法ハウス入居者生活実態調査報告書

 当ネットワークで実施した「脱法ハウス入居者生活実態調査」の報告書を掲載します。
 脱法ハウス入居者への初めてのアンケート調査になります。
 ご回答をいただいたのが12人と少なかったのですが、入居されている方々の生活・就労状況を知る手がかりになるかと思います。ぜひご一読ください。


    脱法ハウス入居者生活実態調査報告書

住まいの貧困に取り組むネットワーク
まとめ:小田川華子(首都大学東京非常勤講師、社会福祉)

2013年9月12日


【趣旨】
 脱法ハウスと呼ばれる違法性を含むシェアハウスに入居している人々は相当な数にのぼると推測されている。これらの人々はなぜ、民間アパートではなく、このような住環境を選ばざるを得なかったのだろうか。背景には、生活困窮者や入居差別の対象になりやすい不安定就労層や外国人に対する住宅保障政策の遅れがあると考えられる。
 そこで、住まいの貧困に取り組むネットワークは、脱法ハウス入居者の就労状況や入居の経緯などを明らかにすることによって公的な住まい保障の課題を探り、国、自治体、そして社会に訴えていくための資料を得ることを目的に、アンケート調査を実施した。

【実施主体】住まいの貧困に取り組むネットワーク

【実施期間】2013年7月17~31日

【対象者】千代田区の脱法ハウスAの入居者および関連の相談機関の利用者で脱法ハウスに入居している方、計40名

【回収率】12人の方から回答があった。回収率30%。回収率が低いため、脱法ハウスA全体の傾向を反映した結果が得られたとはいいがたいが、ここで得られたデータは、住宅弱者の実情の一部を映し出しているといえよう。

【結果及び考察】

<回答者の属性>

1.回答者の性別は男性75%、女性25%。外国人25%。

2.回答者の年齢は20~50代で、20代が42%、30代、40代がそれぞれ25%である。

<入居の状況>
3.入居期間半年以内が42%、1年以内が75%を占める。

4.一方、 1年半以上も脱法ハウスに継続して住んでいる方が2割弱であることから、アパートが見つかるまでの「つなぎ」としてではなく、定住場所として脱法ハウスに住んでいる(住まざるを得なくなっている)方が一定数存在すると思われる。

5.入居直前の1ヶ月にアパート居住であった人が過半数を占めるが、そこを出なければならなくなった理由は、家賃問題、契約期間満了、就職・転職、職場に住み込みののち周囲との関係悪化で退去等、多様である。

6.外国人の回答者は3人とも来日してすぐに脱法ハウスに入居し、他人とルームシェアしている。海外から渡航あるいは帰国してきた人のとりあえず(1年以内)の住まいとして脱法ハウスが機能していることがうかがわれる。

7.入居の決め手となった点として、「すぐに入居できる」(67%)、「家賃が安い」(58%)を挙げた人がとくに多く、このことは「アパートを借りることができなかった」(50%)の裏返しとも言える。その他、「職場に近い、または仕事を探しやすい立地だから」(25%)、「家具・家電が揃っているから」(25%)があげられた。

8.「すぐに入居できる」ことから、緊急の必要性から「つなぎ」の住まい、あるいは、とりあえずの居場所として脱法ハウスが選ばれたことがうかがえる。また、家具・家電が揃っており、家賃が安く、就職内定に必要な住民票をとることができる、という利点から脱法ハウス入居を決めた就職活動期の20代の若者がいることから、就職活動期特有のニーズがあることがうかがえる。

9.アパートを借りることができなかったため脱法ハウスに入居することになった6人から、アパート入居の妨げとなった理由として挙げられたのは、「保証人がいなかった(頼める人がいなかった)」「初期費用が支払えなかった」(各5人、83%)、「家賃が高額」(4人、67%)、「不安定就労を理由とする入居差別」(2人、17%)等であった。

10.このことから、低所得者、不安定就労層の安定的な住まいを保障するべき公的な住宅保障施策になり代わり、脱法ハウスがアパートに入居できない人々の受け皿として機能している皮肉な現実がうかがえる。

<就業状況>

11.無職の1人以外の回答者が就労しており、比較的安定的な就労状況にある常勤は4人、自営業1人であった。それ以外の不安定な就労形態(期間契約、パート・アルバイト、派遣、日雇い、その他)の方は6人で、なかには仕事を3つかけもちしている方もいる。以下、無職の方を含む不安定就労層の7人(58%)と、常勤、自営業の5人(42%)に分けてみていきたい。

12.不安定就労層の方は通勤に500円前後の交通費自己負担を強いられ、30分~1時間かけて通勤している。仕事をかけもちしている方はその日の仕事場によって通勤時間は様々。収入が5~10万円(2人)あるいは15~20万円(2人)でもこの状況を受け入れなければならないのは、職場が変わるたびに転居することが困難であり、仕事を得やすい都心の交通の便の良いところに住まいを確保することが必要である事情がうかがえよう。

13.常勤及び自営業の5人には交通費が支給されており、常勤のほとんどは通勤時間30分以内である。収入は15~20万円が2人、25万円以上が3人である。

<家族とのつながり>

14.父母と連絡を取っている人がほとんど(75%)で、兄弟姉妹と連絡を取っているのは33%、連絡を取っている家族がいないのは8%であった。

<転居に当たっての心配事>

15.現在の場所からの転居に当たっての主な心配事は、「費用の問題」(83%)と「保証人・緊急連絡先の問題」(58%)である。その他、「シェアハウスのようにすぐそばに誰かがいないと寂しい・不安」(25%)、「通勤可能な場所での住まい確保」(17%)、「路上生活になってしまうのではないか」(8%)、「アパート入居はあきらめている」(8%)があげられた。「費用の問題」については不安定就労層の86%、「保証人問題」については不安定就労層の71%が心配だとしている。

16.費用問題については、常勤で15~20万円の収入を得ている人のみならず、25万円以上の収入を得ている人も心配事としてあげている。これはアパート入居の際に必要な初期費用が工面できないという事情があるものと考えられる。

17.現在の場所からの転居に当たって保証人・緊急連絡先を心配事としてあげた人7人についてみてみると、20代3人、30代1人、40代3人、外国人2人である。40代のうち家族とのつながりについて回答のあった2人についてみてみると、1人は連絡を取っている家族はなく、もう1人は父母とだけは連絡を取っている。しかし両親はおそらく高齢であり、保証人を頼める状況ではないと推測される。20~30代の4人は父母あるいは兄弟姉妹とだけは連絡を取っている。にもかかわらず、保証人を頼むことはできないということは、関係が希薄であるか、父母も経済的に困難な状況にある、あるいは外国人であるため保証人を頼めないことなどが推測される。住むところが見つからず、路上生活になってしまうのではないかという不安さえ抱くほど、住まい探しは深刻である。

18.転居に当たっての心配事として「すぐそばに誰かいないと寂しい・不安」と答えた、「シェアハウス」という居住形態のニーズをもっている人は回答者全体の3人(25%)であった。安定就労層2人、不安定就労層1人。

19.低所得者、不安定就労層のアパート入居支援策の充実が求められる。たとえば、就労している低所得者が利用できる初期費用の貸付制度、家賃手当て制度、公的な低家賃住宅供給等。また、賃借人が個人で保証人を立てなくてもよいようにする方策が求められる。

<生活困窮者関連施策の認知度>

19.生活困窮者支援に関連する施策についての知識を問うたところ、生活保護について知っているのは67%だったが、チャレンジネットは25%、住宅支援給付(住宅手当)は17%、つなぎ資金貸付・生活福祉資金貸し付けは8%にとどまった。低所得者や不安定就労層が必要とする社会制度の情報を彼らに届ける手立てが講じられるべきである。

<体調>
20.体調については92%の回答者が心身ともに健康であると答えた。心身の健康に不安があると答えたのは8%であった。

以上
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