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あるゲストハウスでの定期借家制度の悪用事例

住まいに貧困NWに以下のような報告がありました。



平成21年3月末頃からベッド貸しのゲストハウスに住んでいる。
新宿に近いところで、マンション全体がゲストハウスになっていて、一部屋に2段ベッドが4つあり、8人部屋。
ゲストハウス室内1
家賃22000円、光熱費5000円で合計27000円。
シャワー代10分100円で洗濯機1回200円。
駅まで少し遠いが、値段がネットで検索して一番安く、職場まで乗り換えなしで45分程度なので、このゲストハウスを選んだ。
入居者は担当者が制限をかけているようで、男女とも20代30代の非正規労働者が多く、学生や外国人はむしろ少ない。
入居して、まず2ヶ月間の定期借家契約を結ばされ、その後、平成21年6月から平成22年4月末まで11ヶ月間の定期借家契約を結ばされた。
10月のある日、ベッドの入り口に「お知らせ」という紙がおいてあり、家賃(22000円→23000円)と光熱費(5000円→10000円)の値上げ(合計6000円)が通告された。増額により追加で提供される備品についても、調味料や洗剤といった必ずしも毎月使い切るものではなく、到底納得できなかった。
値上げ通知
値上げを拒否したところ、再契約はしないと言われた。定期借家契約は、更新がない契約なので期間が過ぎて、再契約できないと出て行かざるを得ない。
個人的には、来年5月以降も継続して住むつもりはなかったので、問題なかったが、ずっと住み続けようとしたときには値上げを受け入れるしかないのは、問題かと思う。
他の居住者にも聞いてみたところ、60人中50人強が「イヤだけど、仕方ない」と値上げを受け入れざるを得ない状況だった。
提供すると予定されていた備品についても、1ヶ月以上経ったにも関わらず、いまだに置かれていないものもある(平成21年11月現在)。
ゲストハウス室内2 ゲストハウス室内3



契約書をUPします。
2度目に交わされた定期建物賃貸借契約書です。契約期間が、平成21年6月から平成22年4月末までの11ヶ月になっています。
ゲストハウス契約書1

細かい契約内容です。第6条などはゲストハウスならではでしょう。
ゲストハウス契約書2 ゲストハウス契約書3

まず、ここで用いられている定期借家契約ですが、あまり聞きなれない方もおられるかもしれません。
賃貸借契約には普通借家契約と定期借家契約という2つの形態があり、普通借家契約の場合は、更新が可能で契約解除のためには正当な理由が必要ですが、定期借家契約の場合は、更新がなく、契約期間が終了すると再契約しない限り、基本的には退去しなければなりません。

この定期借家制度の運用について、上記の相談では大きく2つの問題があると考えられます。

1.入居当初に2ヶ月間、次に11ヶ月というごく短い期間の契約を結ばされていること。
2.家賃値上げについて拒否したら再契約しないとされていること。


1について
入居時に2ヶ月という短期間の契約を結ぶことで、まるで試用期間のように滞納がないか、問題を起こさない人物であるかを見られていると思われます。そして、問題なければ11ヶ月の契約を結ぶことになりますが、この11ヶ月というのも、1年以上の契約である場合は必要とされている「賃貸借が終了する旨の通知」をする義務を避けるために、1年未満の期間にしていると考えられます。

2について
上にも書いたように、定期借家契約は更新がなく、期間が終了すると、基本的には出ていかねばなりません。定期借家契約が再契約されるかどうかは、家主次第なので、借主は家主の言うことをすべて承諾するしかない立場に置かれてしまうことになります。つまり、たとえ家賃値上げといった不当な要求であっても、「承諾しなければ再契約をしないぞ」と貸主が脅すことで、再契約を望む借主は受け入れざるをえない状況になってしまいます。普通賃貸借契約の場合は、簡単に追い出すことができないので、賃料についても双方が納得するまで、あるいは裁判で判決がでるまで争うことができます。そのような意味で、定期借家契約が家主による借主への恫喝的手段として用いられています。

これらは現在のところ、法的に問題はないとされています。しかし、短期間の契約を迫られることにより不安定な居住を強いられ、不当な値上げについても対抗する手段を奪われているという点においては、決して見過ごすことはできない事例です。定期借家契約は期間が終了すれば退去する契約ですが、転居も負担になることから、そのまま同じ場所で住み続けることを希望する入居者が多いのも実情です。定期借家制度はそもそも良質な賃貸住宅を安価に提供することを目的として導入されたものですが、上記のような事例が当初の目的からは大きく外れているのは明らかです。
このような運用がなされている定期借家制度は即刻廃止されるべきではないでしょうか。

定期借家契約など賃貸借契約の不明点についてもご相談、事例をお寄せ下さい。
sumainohinkon@gmail.com
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恒常的に貸し続ける定期借家はヘン

 約10年前、この定期借家制度が導入されるときには、全国借地借家人組合などが随分反対運動をしました・・・が世の中全体の「規制緩和」の波に呑み込まれてしまったように感じます。
 とはいえ、定期借家制度は一般的に弱い立場の賃借人により弱い立場に追い込む可能性は見えていたわけで、そのときにはそれなりの規制をかけていた、と記憶しています。

・・・・・・・・・・・・・・・
定期借家制度施行の際の国交省HPより
http://www.pref.nara.jp/jutaku/seisaku/teishaku.html

契約方法
(1)公正証書等の書面による契約に限る。
(2)さらに、「更新がなく、期間の満了により終了する」ことを契約書とは別に書面を交付して説明しなければならない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 公正証書「等」は公正証書でなければならないことを意味しませんが、「きちんとした文書による」ことを要件としている、と思われます。また、(2)の説明義務は、(少なくともこの制度が導入されたときには)重視されています。きちんと説明されなければ普通借家契約とみなす、と。

下は定期借家推進協議会(つまり定期借家の推進側)のHPに載っているものです。
・・・・・・・・・・・・・・・・
4. 契約の前に、賃貸人が、賃借人に対し、定期借家契約である旨を記載した書面を交付して説明すること
 定期借家契約をしようとするときは、賃貸人は、あらかじめ、賃借人に対し、定期借家では契約が更新されず期間の満了により賃貸借が終了する旨を記載した書面を交付して説明しなければならないとされています。そして、賃貸人がこの義務を怠った場合には、たとえ契約書に更新をしないと定めていても、その特約部分は無効とされ、従来型の普通借家契約と扱われることになります。なお、一般的に、宅地建物取引業者等が賃貸人と賃借人を仲介することが多いと思われますが、仲介者が単に仲介者としての立場で説明等を行なっても、この義務は履行されたことにはなりません。本来賃貸人が負う義務だからです。しかし、仲介者が、賃貸人からこうした義務を履行する代理権を授与された上、代理人として賃借人に説明等をする場合には、賃貸人の義務は履行されたことになるものと解されます。
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 拝見した契約書には、確かに「借地借家法第38条に規定する定期借家契約」と記載されているものの、十分な説明がなされたのかどうか疑問を感じます(利用者が普通借家契約というものが存在することをよく知らないことを前提にしていないか?という疑問)。
 また2ヶ月・11ヶ月で「再契約」を繰り返すとすれば、そもそも定期借家制度導入の(オモテ向きの)趣旨にも反するように感じます(確かに「再契約を妨げない」となっていますが、もともとは更新をしないのが原則)。
 定期借家制度導入の大義名分は「例えば『遠方への転勤などで数年間はマイホームに住めないがいずれ戻ってきて住むことは確実』『今は同居している子どもがそう遠くないうちに独立して住むことになりそう』というような場合に、普通借家契約だと契約を解除するのに手間暇がかかるので貸したくない、と考える家の所有者が結構多い。期限を切った定期借家制度はとりあえず空いている物件を貸しやすくすることで借家全体の数を多くするから借家人にとっても利益になるはず」というようなことでした。
 しかし、実際はここで挙げられている事例のように、貸主は、恒常的にその物件を貸し続ける意思であるにも拘わらず定期借家契約が使われているようです。まさに普通借家契約をする余裕のない層を狙った貧困ビジネスそのもの。

Re: タイトルなし

どうもコメントありがとうございます。

> 最近、民主党政権になって賃貸住宅環境の改善に本格的に取り組む動きが出始めたそうです。期待したいところです。

ただ、民主党はマニフェストで「定期借家制度の普及を推進する」としています。
なので、注意深く監視する必要があるかと。

定期借家制度は本来、店舗や出張等の長期滞在等、他に定住する住居を持つ人向けの制度であるべきです。

この制度が普通の居住用に拡大された背景には、不動産経営者を後押しして営業の拡大を図る不動産会社、建設会社、銀行の都合を優先する政策があります。

最近、民主党政権になって賃貸住宅環境の改善に本格的に取り組む動きが出始めたそうです。期待したいところです。
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